和解考察

平成22年(ワ)第30284号の和解について考察する

管理人の知人で弁護士をやっている方に
平成22年(ワ)第30284号の和解について質問してみました。
「準備書面等を直接見ていないので、あくまで一般論と私見でよければ」
ということで色々教えて頂きました。

参考としてご覧ください。

管理人質問:「何故被告は反訴を起こさなかったのか?」

以下弁護士回答:
 反訴に関して、誤解をしている人が多いので説明する。

 「原告が不当な訴訟をしてきたから反訴する」はそもそも成り立たない。
 (後述するが厳密に言えば「成り立たないわけではないが、成り立たせるのは非常に困難」)
 反訴とは
 「本訴事件の継続中に本訴事件と関連する事件を被告から原告に対して起こす裁判」
 つまり
 「共通する事実関係を理由として、本訴被告が本訴原告に対して被告に対して行う裁判」
 なわけだ。
 本訴では原告は被告に対し「名誉棄損」で告訴した。
 つまり被告が反訴するのであれば「名誉棄損」で反訴する事となる。
 
 本訴原告の損害賠償請求とその理由となる事実が、本訴被告の社会的評価を低下させることが
 立証できるのであれば反訴が可能になるが、本訴被告側がそれを立証できたかが疑問。
 (本訴原告も本訴被告のmixiで営業損害を受けたと書いているが、その証拠を出しておらず
  本訴被告側が営業損害の立証ができるとは思えない)
 
 次に「不当提訴」を理由として反訴する場合は、
 本訴提起で求めた請求が事実・法律的根拠に欠くものであるうえ、
 提訴者が事実・法律的根拠に欠くものであると知りながらor通常人であれば容易にそのことを
 知り得たのに敢えて提訴したという
 「裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く」という事実を立件・立証していく事となる。

 本訴で求められた請求は「mixiでの謝罪と損害賠償請求200万+弁護士費用」
 「裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く」請求とは言えない。
 
 反訴が出来ない場合、別訴で本訴原告を訴えることも可能。
 しかしながら反訴と違って裁判が並行で行われるわけではないし、
 そもそもこれは反訴・別訴を行わなかった真の理由と考えられるが
 
 「名誉棄損で訴えあう消耗戦」
 
 を避けたのではないかと考える。
 上述のように手間がかかる上、当然裁判費用が発生するし、長期化もする。
 また反訴・別訴を行ってもそちらで勝てるという保証も無い。
 
 もし私が被告の弁護士だったら同様に反訴や別訴は勧めなかっただろう。

管理人質問:「和解内容を見てどう思う?」

以下弁護士回答:
 「実質被告の勝利」
 理由として
  • 原告が請求した「mixiでの謝罪と損害賠償請求200万+弁護士費用」は一切得られていない。
  • 被告は「被告自身が負担した費用のみ」を支払えば良く、原告には支払いゼロ。
  • 原告は「企業が一個人を(それも首を傾げたくなる内容で)訴えた」という前例を残した。
  • 一方で被告は「同人委託ショップが同人サークルの言動を掣肘しかねない」という危機に対し
   同人サークルが不利な前例となることを避けた。
 が挙げられる。
 和解調書第一項にある「謝罪」とは噛み砕いて説明すると
 「被告がmixiにおいて行き過ぎた表現を書いたのは事実であるから、その点について謝罪をする」
 ということであり、和解調書第一項を原告・被告が同意した時点で「謝罪」が成立する。
 つまり原告が訴訟で請求した「名誉毀損による謝罪」とは全く別物であり、ましてや土下座や謝罪文提出ではない。
 
 この和解において特に重要なのは4つめの理由。
 あくまで個人的な意見だが、同人サークルは被告に対し感謝すべき事象だろう。

管理人質問:「被告は弁護士を雇わずに自力で裁判ができたと思う?」

以下弁護士回答:
 私は被告とは面識ないが、
 準備書面を書くだけでもかなりの手間だし、原告は弁護士を代理人にしていた。
 少額訴訟なら自力でも何とかなるかもしれないが、
 専門の知識持っていなければ、自力では無理だろう。

管理人質問:「もし和解を断り、裁判を継続していたらどうなっていた?」

以下弁護士回答:
 難しい質問。
 通常和解が決裂した場合、中断していた準備書面と最終準備書面の提出が双方から行われ
 裁判官による査読の後、当事者が法廷に呼ばれて公述と審議の後、判決が下る。
 1~2年の時間がかかっていただろう。
 その上費用も跳ね上がるから、被告の精神的・金銭的な負担は個人で抱え込む範疇を越えていただろう。
 判決そのものも難しい。
  • クローズドのSNSにおける書き込みが名誉棄損になるかどうかの判例が皆無。
  • 被告は原告が「日本では売れない」と侮辱する発言と言っているが、事実だとしても
   営業マンが売れる・売れないと発言する事はある。
  • クローズドのSNSにおける書き込みが、どれだけ売り上げに影響したかの情報が無い。
  • 被告と言えども、店舗を利用するサークルの構成員であり、店舗ユーザーでもある。
   前述のとおり判決次第で「同人委託ショップが同人サークルやユーザーの言動を掣肘する」
   事態に陥りかねない。
  • どちらかが勝っても不服ということで控訴、そして上告が行われるだろうから
   結論が出るまで膨大な時間が必要だっただろう。

 よって、地裁判決が出ても泥沼化していただろう。

  • 最終更新:2012-08-02 18:53:33

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